― BLUE ―

*******


「ほら、ダラダラしない。早く食べないと遅刻するでしょ?」

「——わかってるって」


熱を出してから5日目の朝。
土日を挟んでいたのもあり、すっかり体調も復活した。

相変わらず杉本からの連絡がない状態は続き、声を聞かなくなってから半月以上も経っている。

もう期待したり近づいたりしないと決心は固まったものの気が重い。


「もういい。ごちそーさま」

「食べないの?」

「行ってきまーっす」


屋上には行くつもりもないので、いつもポケットに忍ばせていたはずの鍵も家に置いて出ることにした。

少し込み合うエレベーターへ乗り込み、密室の咽かえるような親父臭に息を止める。


「ぷは…っ」


外に出て新しい空気をたくさん吸い込んだ。
伸びをすれば大きい欠伸も一緒になり涙で視界が少し滲む。


だる。


とぼとぼと重い足取りを玄関ホールへ向かわせながら、もう一度出そうな欠伸をどうにか噛み殺し顔を上げた。


「あ……」


見慣れた後姿が目の端に映りこむ。
見間違うわけがない杉本だ。

こちらに背を向けた形でマンションの入り口付近にある花壇の縁に座っているのが見える。

——どうして?

でももう決めた。
期待なんかしない。

杉本はまだ気づいていないようで、少し頭を垂れていた。

その前を全力で気付かないフリをして通り過ぎる。

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