― BLUE ―
「無視すんのかよ」
通り過ぎたとき顔を上げてなかったのに。
なんでよ。
「おい辻」
「………………おはよぉ…」
立ち止まりはしたけれど、まっすぐ前を見たまま振り返らず挨拶をした。
「なんでこっち向かないわけ?」
ゆっくり振り返って見てみれば、いつもとなんら変わらない杉本がそこにいる。
「…うして」
「は?」
「どうして、ここにいるの?」
まっすぐ杉本の目を見つめてみると、泣きたいのか怒りたいのか。なんだかだんだんワケがわからなくなってくる。
「なんとなく、たまたま」
まただ。
「……けど杉本の家、うちとは反対じゃん」
「だから、たまたま」
「バカにしてるの? あたしが今日から登校するとは限らないでしょう? あー…そっか、学校休んでたことも知らなかったとか?」
「だから、たまたまだって!」
杉本の表情が少しイラついているようにも見える。
「———…なワケないじゃん。たまたまなワケないじゃんっっっ!?」
そんな杉本を見て涙を堪えようとしたら怒りの方が勝ってしまったみたい。気持ちに任せて激しく強い口調でそう言い放っていた。
「どうしたんだよ?」
あたしの腕を掴んだ杉本は対象的なほど冷静なトーンでそう言った。
なんか、ひとりでバカみたいだ。
掴まれている腕をゆっくり引き剥がし、杉本の目を避けるかのように歩き出した。