― BLUE ―

階段に差し掛かったときハッキリ杉本の声を聞いた。

——止まるべき? 
いや無理だ。


「おい辻っっっ!!!」


ほとんど叫んでいるような杉本の声が聞こえる。

だけどあたしの足は杉本を止まることなく振り返ることもない。てか出来ない。

だってきっといま酷い顔してるんだもん。


「待てよっ!」


イヤだ。
振り向きたくない。

こんな顔、見られたくないのに。
どうして呼び止めるの!?


「辻っ!」


腕をガシリと掴まれる。


「ちょっと、ちょっと待てくれよ…っ」

「——なに」

「こっち向け」

「いや」

「頼むから」

「無理だし」

「こっち向いてくれよ」

「無理だってば」

「——頼むよ」


突然ふわっと、杉本の香りに包まれたような気がした。
だけどなにが起こったのかわからなくて。


「行かないで欲しい」

「……」


いまなんて。


「行かないで」


ふたたび確かめるように。
握っているあたしの腕にも力を込めたのがわかる。

そしてゆっくりと、あたしのひとつ上の段まで降りてきた。
だけど、どうして。

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