― BLUE ―

「放して」

「いや」


振りほどこうとすればするほど、更にキツク掴まれる。


「……痛い。お願いだから放して」

「いやだ」


そしてゆっくりと。
あたしが立っている段のふたつ下の段まで杉本が下りてくる。

顔を見られるのを避けるため、クルリとまた屋上の方に身体を向けた。


「おま…、なにやってんだよ」

「イヤなの」

「なんだよそれ」


後ろから腕がスルりと伸びて来たと思ったら、そのままあたしは杉本の腕の中へすっぽりと包まれた。ふわっと優しく。

突然の出来事に頭が放心してしまう。
だって杉本の髪があたしの頬に当たっている。


「——す、杉本…?」


口を開く気配のない杉本だけれど息遣いが耳元で聞こえた。耳の近くに心臓があるのかって思うほどドキドキしてるのがわかる。

恐る恐る、あたしの体に回されている杉本の腕へそっと触れてみた。


「杉本…?」

「うれしい…」


消え入りそうな声が聞こえる。


「さっきの本気?」

「え……?」

「本気でいった?」


どれのこと?


「俺のこと好き?」

「——ぅ、うん」

「どっち?」

「ほ…、ほ、ほ、ほんきぃ」


杉本の腕にぎゅっと力が入り、そこから吐き出された息で生ぬるい熱がこもった。


「やば。すっげー嬉しいんだけど」

「——え?」


いまなんて?


「なんだよあれ。なんか怒られてんのかと思った」


杉本がクスリと笑えばあたしの髪が息で揺れ頬にかかる。

そして両肩をつかまれた。
そのまま杉本と向き合う形に。
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