― BLUE ―
「なんか、今日はよく喋るね」
だっていままで、ふたりでいてもとくに会話がなくて。
だけどそれでも居心地がいいと感じてた。
いまその理由が少し。ほんの少しわかった気がする。
「ありがとね」
「おあいこ」
そして自分の片膝の上に手を置き、身体を支えながら立ち上がる杉本。
その背中で太陽が輝いてて、眩しくてよく見えない。
「辻も俺がつらいとき、屋上連れてきてくれたじゃん」
ふと笑って、手を差し伸ばしてきた。
そしてあたしはその手を取り立ち上がる。
「あんときさ、なんかこいつスゲーって思ったし」
顔を覗きこんでくる杉本の目をみていると、一瞬吸い込まれそうな気がした。
涙で顔にへばりついている髪の毛を指で払いのけてくれる。
そして微かに笑う杉本。不思議に思い首を傾げる。
「涙が止まる、おまじない」
しっとりと温かい。
柔らかい唇があたしの瞼に触れた。
——トクン
あたしの心臓が一度だけ大きく震える。
思わず杉本を見つめてしまった。
「さてっと。そろそろ教室に戻ろうか」
そして歩き出す。
あたしはその背中を見て“失くしたくない”と思った。
杉本があたしの中で、初めて形あるものへと変化した瞬間かもしれない。
"失くしたくない"
一度だけ大きく震えた心臓は、またいつもどおりに動き出している。