― BLUE ―
咲はずっと遼汰が好きだったそうだ。それは中学に入学したての頃で、まだ制服も着なれていない時期から。一目惚れだったらしい。
この話、あたしも憶えていた。
咲から聞いたカッコイイ人。それがつまり遼汰のことだったんだと。いまさらながらに気づいたほど。
ずっと一緒だった咲。遼汰は、あたしを気に入ったとかで咲を利用して近づいてきたそうだ。
一目惚れの彼から話しかけられた咲は舞い上がっていたらしい。だけどそのあとすぐ、一目惚れの彼の口から“辻さんとの仲を取り持って”といわれたのだとか。
いまさらこんな話を聞いたとしても、とは思った。
だけどあたしは自分のことばっかりで、ちっとも咲の気持ちを知らなかった、わかっていなかったんだと思ったら、なんか少し苦しくなった。
あたしと遼汰。きっとふたりぶんの悩みを、ずっと嫌な顔ひとつせず付き合ってくれていた咲。初めてキスしたときも真っ赤になってキャーキャーと一緒に喜んでくれていた咲。
自分ばかりが辛くて悲しくて苦しいんだと思っていたのに。
そしてそんな話を聞いたあと、咲が盲腸で入院したと担任が言う。あたしたちの関係を知っている杉本が“見舞いに行こう”と言った。
だからいま教室で咲と話すようになったのは、杉本のおかげでもある。
『行ったほうがいい』
"……だけど"
『ほら行くぞ』
戸惑っているあたしに手を差し伸べてくれた杉本。
まるで子供のように手を引かれ杉本の後をついて行き、そして病室に着いて扉に手をかける。
みるみる足元がガクガクして動けなくなり隣にいる杉本を見上げた。
『大丈夫』
あたしの代わりに扉をゆっくり開け、そっと背中を押してくれた。
病室は4人部屋で、咲は窓際の奥。入り口のところで少しもたついているあたしに気付いた咲は、一瞬表情がこわばったようにも見えた。
だけどすぐに満面の笑顔で出迎えてくれて。