― BLUE ―
またいつかのように心臓が大きく震えたのがわかる。
屋上でのおまじないといい、こんなことって杉本にとって大したことないのかも。
それに年上の彼女がいたから普通のことなんだろう。だけどやっぱり、あたしの心臓がなんだかおかしい。
違う。
あたしだけ心臓がおかしい。
そんなあたしの視線に気付いたのか、杉本は少し顔をしかめてからふっと表情を緩めた。そして声を出さずに口元だけで“ブス”と言って笑う。
『あけましておめでとう』
それから耳元に顔を近づけてそう言った。
年が明けた…。
「シンちゃ〜〜ん」と甘ったるい声で腕に絡みつく奈美の姿を眺めながら、また歩き出す。
なんかバカみたい。
おしゃれもしてきたのに。
カウントダウンをしたからといって特に実感がわかなかったけれど、とにかく新年。新しい年。
帰りの電車の中は深夜なのにもかかわらず、人がたくさん乗っている。あたしは真っ暗な窓に映るつり革の揺れだけ、ぼんやり眺めていた。
いまふたりはとくに会話をするでもなく、杉本はスマホを弄っている。ーーーーーと、思ったらガラス越しに目が合った。
ちょこんとこちらに顔を向ける杉本。
「なに見てんの」
「見てないし」
「目合っただろ」
「あー、見てたかも」
「なんだそれ」
そして、やっと最寄りの駅についた。