― BLUE ―
「今日はありがとね。今年もよろしく〜ってな感じで、バイバイ」
電車を降りてすぐ、ホームでふたりに別れを告げる。
「あ、待って。ちゃんと家まで送るって」
杉本と奈美は家が近所らしく、あたしとは反対方向だ。
それに早くひとりになりたかったので“送る”という杉本の言葉も面倒な気持ちになる。
「新年つっても、こんな深夜に女ひとりじゃ危ないだろ」
奈美はあたしと杉本のそんな様子を観察するかのように、少し口を尖らしながら杉本の腕にからみついていた。
「あのさ〜? 知らないと思うけど。あたしんち駅から2分だし大丈夫だから」
本当は15分はかかるのだけれど。杉本の言葉を制しつつ、半ば無理矢理その場から立ち去った。
だってひとりになって、少し頭を冷やしたかったんだもん。
「あ……」
雪だ。
駅前のアーケードを抜ければ静かに雪が舞っていた。
どおりで寒いわけだよ。
「さむ」
朝には積もっているかな。見上げてみれば真っ黒な空。
落ちてくる雪のせいで、空に上っているような不思議な感覚がする。
積もったらいいのにな。
あたしのこのモヤモヤした気持ちも、まっさらな白に染めてくれたらいいのに。
手のひらに乗った雪は一瞬で行き場を失ったかのように滲んだ。
「帰ろ」
ふたたび歩きはじめれば、辺りはしんと静まり返った街。どこか遠くの音まで運んでくるようで、微かに犬の遠吠えが聞こえた。
なにこれ。なんか切ない。
巻いてきた髪を手に取ってみれば、手に残る感触が……。さらに切なくなってくる。