彼女とボクと出会いの季節
出会いの季節
桜の花が咲き乱れる頃、ボクはその場所で彼と約束した。
“いい子でな”
そう言っていつも通りに優しく頭を撫でてくれた彼は、いつものような楽しげな笑顔ではなかった。
泣き出しそうな顔を必死で歪めて笑う彼。
近づいて行ってしゃがみこんだ膝に前足を乗せたら、また彼の顔がクシャっと歪んだ。
体の小さいボクでは、どんなに体を伸ばしても、彼の頬を伝う涙を拭ってあげられない。
だからお願い、泣かないで。
どうか、いつもみたいに笑って。
彼にボクの言葉は伝わらないけれど、それでも精一杯の気持ちを込めてクンクンと鼻を鳴らし、彼の膝に頭を何度も擦り付ける。
”ごめんな……”
彼の頬を伝った涙が、ボクの鼻に落ちた。
”本当に……ごめんな”
膝に乗せていたボクの前足を掴んで、彼はそっと地面に下ろさせる。
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