彼女とボクと出会いの季節
少しだけ、首を動かして振り返って見れば、さっきまでボクのいた場所が、どんどん遠くなっていくのが見えた。
葉っぱをいっぱいにつけた桜の木が、どんどん遠く離れていく。
さようなら……。
彼女の腕にしっかりと抱かれて、ボクは真っすぐに前を向く。
ボクがもう、彼を待つことはない。
桜の木の下に彼との約束を残して、ボクは今日から、彼女と一緒に生きていく。
巡る季節も流れゆく時間も、彼女と一緒に生きていく。
「名前を考えないといけませんね。でも実はもう、素敵な名前を考えてあるんです。家についたら、発表しますね」
嬉しそうな彼女の声を聞きながら、ボクは大きくあくびをする。
本当はずっと寂しくて、彼との約束を守るために気を張り通しで、とってもとっても疲れていた。
彼女の腕に抱かれてようやく安心した瞬間、一気に眠気がやって来る。
どんな名前を贈ってもらえるのか楽しみに待ちながら、ボクは彼女の腕の中で静かに目を閉じた。