彼女とボクと出会いの季節


“いい子でな”


その約束をしっかりと守って、ボクは今日も桜の木の下で彼を待つ。


「やだ、かわいいー!なに、この犬」

「捨て犬?かわいそー」


やたら短いスカートを履いた女の子が二人、ボクの前で立ち止まる。

無遠慮に伸ばされた手も嫌がらず、ボクは大人しく受け入れる。


“いい子でな”


それが、彼との約束だから。


「そうだ、この前犬飼いたいって言ってなかった?この子連れて帰れば」

「ええーだってこれ雑種でしょ?うちのお母さん、飼うなら絶対チワワがいいって言ってたしー。そっちこそ、猫よけに番犬が欲しいって言ってたじゃん」

「うちは無理。だってお父さんが欲しがってるのはでっかいやつだもん。この子は可愛いけど、チビだからちょっとね」


代わる代わる頭や体を撫で回す手が、不意に離れていく。

嗅ぎなれた石鹸の香りとは全然違う、甘ったるい嫌な匂いも一緒に。


「残念だねー。じゃあ、いい人に拾われるんだよ」

「ばいばーい」
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