彼女とボクと出会いの季節
「もう十分、待ったと思います。わんこさんは、とてもいい子です」
彼女の微笑みに、彼の笑顔が重なっていく。
最後に見たのはとても歪んでいて、笑顔なんて呼べたものじゃなかったけれど、毎日のように見ていたボクの大好きな彼の笑顔に、彼女の笑顔がピッタリと重なり合う。
本当は、初めから気がついていた。
彼がもう、戻っては来ないことを。
どんなにいい子で待っていても、彼はボクを迎えにきてはくれないということを……。
一瞬だけ立ち止まって、すぐに去って行く人達とは違う。
毎日のようにボクの隣に腰を下ろして、優しく話しかける彼女が、ボクは怖かった。
その優しさを受け止めてしまったら、彼がもう戻っては来ない現実も一緒に受け止めなければいけなくなるから、だから怖かった。
ボクは、ここでずっと彼を待っていたかった。
彼と一緒にいることがボクの幸せで、それ以外の幸せなんて知らなくて、知る必要もなくて、だから……だからボクは………。