カボチャ男とハロウィン
「えっ、どうしたの……?」
「千菜ちゃんが悪いんだよ。そんな、一緒にいられて嬉しいなんて言うから。甘えた声で言われたら、離れがたくなるじゃん」
ぎゅうっと純哉の腕の中に強く閉じ込められる。
……甘えてるのは私じゃなくて純哉じゃん。
純哉が頬擦りしてきてむず痒い気持ちになる。純哉は何度私の顔を赤くすれば気が済むのだろう。
隠すためのお面もないから、ぎゅうっと抱き付いて純哉の肩口に顔を埋めた。
耳元で響く声と吐息。重なり合う鼓動の音。お互いを離さない温もりと力強さ。大好きな純哉の甘い匂い。
私を包み込んでくれるすべてが愛おしく感じられてうっとりと目を閉じそうになるけど、お母さんに呼ばれていることを思い出して慌てて身体を離した。いつまでも下りていかなかったら部屋に来られかねない。
それで抱き合っているところを見られたりしたら、恥ずかしすぎて夕飯を一緒に食べられなくなってしまう。付き合っていることは教えてあるけど、いちゃついているところを親に見られて平気でいる自信はさすがにない。
「純哉、そろそろ下に行かないと」
「えー、もっとくっついていようよ。俺だって、千菜ちゃんともっと長く一緒にいたいと思ってるんだよ?」
こんなときにさらっとそういうことを言わないでほしい。純哉も私と同じことを思ってくれていることが分かるだけで、簡単に気持ちが揺れてしまうから。
「でも、夕飯食べないとお菓子食べられないじゃん。二人でハロウィンらしいことするんじゃなかったの?」
「それはそうなんだけどさー」
とにかく部屋を出てしまおうと考えて方向転換した私に、純哉は後ろから抱き付いてくる。背中や肩に乗る重みが邪魔で歩きにくい。
これじゃあ甘えん坊な彼氏を通り越して、ただの駄々をこねる子供だ。