カボチャ男とハロウィン
……こうなったら仕方ない。
咄嗟に思い付いた行動を今から自分が実践するのかと考えるとまたもや顔から火が出そうになるほど気恥ずかしいけれど、純哉を動かす方法はこれしかないと、意を決して純哉の腕の中でくるりと回った。
いきなり正面で向き合った私に純哉はきょとんとする。その表情が消えるより前に、両手でシャープな純哉の顔を掴んで軽く引き寄せた。
そして背伸びをして、自分の唇を純哉のそれに触れ合わせる。
初めて私からしたキスは震えていて、いつも純哉からしてくれるものよりも短く掠れる程度のものだった。これが私に出来る精一杯だ。
でも純哉の虚を衝いて顔を茹で蛸みたいにすることには成功したので、まあいいだろう。
顔に集まる熱に耐えながら早口で言う。
「ほらっ、早く下に行こう!」
「あっ、うん……」
放心している純哉の手を引いてドアノブを掴む。
だけどドアを開ける直前、背後から耳元に吐息が触れる気配がして。驚いて肩を上下させる私の耳に、甘い囁きが降ってきた。
「あとで、もう一回ご褒美ちょうだい」
おねだりするその声に心臓を撫でられたようなくすぐったさを感じて、どぎまぎしながら純哉を仰ぐ。
するとそこには悪知恵を働かせてにいっとご機嫌に笑っている顔があり、私の作戦は失敗したんだなと悟ってしまった。
どうやらイタズラ心でしたキスは、純哉にとってはご褒美になってしまったらしい。
渋って部屋から出ようとしない純哉の気を逸らすのが目的だったんだけどな……。
逆に私が、純哉のイタズラな罠に引っ掛かりそうになっている。