カボチャ男とハロウィン
『えっ……』
はっと我に返ったときにはもう遅い。
困惑した顔で、純哉が私を見ていた。私がこんなことを言うなんて微塵も思っていなかった、というような驚きが、もろ顔に出ているみたいだった。
私だって、こんなわがままなことを言ってしまった自分に驚いている。でも純哉に戸惑いを露にされると、一気に暗くて深い穴に突き落とされたような気分になった。
そんな、あからさまに困らないでよ。
ちょっとは焼きもちを焼いてることに気付いてよ……。
肝心な思いは言えないまま唇を固く閉じていると、渋々といった感じの声が降ってくる。
『……あー、じゃあ、千菜ちゃんも一緒に行く? それなら、一緒に帰れるし』
じゃあ、って、仕方なくって感じで誘われても、何一つ嬉しくなかった。
すぐさま首を振る。
『行かない。私今から、委員会の仕事あるから』
『じゃあ、やっぱり今日は一緒に帰れな……』
『嫌だ……!』
純哉の声を遮るように出たそれは、思いの外大きかった。
放課後独特の開放的な空気で満たされていた教室が、水を打ったように沈黙を広げる。
何事と問うような視線が、一斉に私と純哉に向けられた。
純哉の後方で純哉を待っているグループの中には、待ちくたびれて煩わしそうに私を見ている目があった。つけまつげとマスカラでボリュームアップしている自信に満ち溢れた目から、私は逃げるように俯く。
そしてカバンを持つと、そのまま教室を出た。尻尾を巻いて逃げる私を笑うように、背後の教室には陽気な笑い声が戻っていた。