カボチャ男とハロウィン
『ちょっと待てよ、千菜ちゃん!』
必死に教室から遠ざかろうとしていた私の手が背後から誰かに掴まれた。振り返らなくても分かる。この温もりは純哉だ。
だけど冷静さを失っていた私は、純哉からさえも逃げるように手を振り払う。
その拍子に見えた純哉は、やっぱり困ったような表情をしていた。
追いかけてくれた優しさの裏に、面倒くさい彼女への同情が見え隠れしているようで、真っ直ぐその顔を見ることが出来なかった。
俯いた私に、あやすように純哉が言う。
『千菜ちゃんは、委員会があるんだろう? それに俺もイベント行くし、それなら一緒に帰れないのは仕方ないことだろう?』
私が“嫌だ”と思っていることが一緒に帰れないことだと、純哉はすっかり思い込んでいるらしい。
確かに一緒に帰れない話を持ち出されてそう言ったのは私だけど、そう思っている理由はそのことへの不満じゃない。
純哉に、あの子たちとハロウィンイベントに行ってほしくない……って、私はその意味で嫌がってるんだ。
私がそう思っている可能性も考えずに仕方ないの言葉で終わらせようとしている純哉に、猛烈に嫌気が差した。
『……行かないでよ』
『え?』
『イベントなんか行かずに、私の委員会が終わってから一緒に帰ってよ』
とんだ無茶ぶりを言っていることは承知だった。
友達と遊びに行くことが好きな人に言うべきではないわがままだってことは、分かっているつもりだった。
それでも、言ってしまった。言いたくて仕方なかった。
友達よりも、彼女を優先してって思ってしまったから……。