例えばこんな切情を、
けれど、先に口を開いたのは彼女の方だった。
「死にたいと思ったこと、あるでしょ」
か細い声でそう言って僕を振り返った彼女の顔は、そんな台詞に似合わないほど、ひどく綺麗だった。突然に静寂を破った言葉の意味を探るように、ひとつ小さく頷いた僕の目を、彼女は真っ直ぐと捕らえていた。
「でも、生きてるでしょ」
さっぱり意味がわからないまま、僕はまたひとつ、頷いた。頬を伝う涙と震えた声が、彼女と僕の間でゆらゆらと揺れているみたいだった。
「死にたいほど悲しかったのに、でも結局生きてるの。殺したいほど憎んでたのにね、でも結局このままなの」
あいつを好きなままなのよと、彼女は笑った。涙でぐしゃぐしゃになったその顔は、やっぱりどうにも美しかった。
何も言わずに、ただ黙って僕の部屋を訪ねてきたときから、差し出した珈琲を拒んだときも、ひたすらに泣き続ける背中も、今この瞬間までの何もかも、彼女はただ、こんなにも美しい。
「……かなしいの、どうしよう」
死にたいほど悲しくても、泣きつかれて眠ってしまえば、明日にはまたどうにかして生きてゆく。殺したいほど憎んでいても、どうでもいいような言葉ひとつで、きっとまた彼を許して、馬鹿みたいに好きでいる。
そんなことを繰り返すたびに、彼女は黙って、僕の部屋のドアを叩くのだ。