きたない心をキミにあげる。
先に口を開いたのは、お父さんだった。
「愛美ちゃんは弘樹を好きだったよね。知ってるよ。でも、弘樹は愛美ちゃんが思うような人じゃないんだよ」
1階のお母さんに聞こえないよう、細々としたトーンで。
その声には、どこか悲しそうな色が混ざっている。
まさか。お父さんにお兄ちゃんとの関係がバレていた?
いや、そんなはずはない。
私がお兄ちゃんと2人きりでいたのは、
お父さんとお母さんが寝静まった頃や、出かけている時。
または、鍵つきの私の部屋にいるときだけ。
「どういうこと?」
震えないように右手で左手をぐっと握りしめ、お父さんをにらみつけた。
「所詮、あいつも父さんと同じ、なんだよ。ほら……母さん待ってるから早く下おいで」
そう言った後、お父さんは静かに階段を下っていった。