きたない心をキミにあげる。
ゲーセンを出た頃には、かなり気温が下がっていた。
冷たい空気が俺と愛美の間を通り抜けていく。
冬の強い風にあてられた彼女は、寒っ、と口にした。
そんな脚出してたら寒いでしょとは言わないでおいた。
「そういえば、なんで愛美はいつもその髪型なの? 冬とか寒くない?」
揺れるポニーテールを眺めながら、俺はそう尋ねた。
家に泊まりに来ても、俺はその髪型以外の彼女を見たことがない。
愛美は風で流れた前髪とおくれ毛を右手で整えた。
袖が軽く落ち、金色に光るブレスレットが顔を出す。
そして、
「お兄ちゃんが似合ってる、って言ってくれたから」
と、ためらいがちに口にした。
ポニーテールが風になびき、視線がそらされる。
俺は、そんな彼女の様子を見ていられなかった。
あまりにもきれいだったから。
「……そっか」
それから無言のまま2人で歩き、駅前で別れた。
今日1日、彼女と楽しい時間を過ごせたことが、別次元での出来事のように思えた。
今ここにある現実は、
悪い夢の続きなんじゃないかとさえ感じるほどに。
――お兄ちゃんが似合ってる、って言ってくれたから。
本当は俺も、その髪型いいな、とずっと思っていた。
髪を上げることにより、可愛らしい顔に活発そうな雰囲気が加えられる。
ナマイキだけど女の子っぽいところもある、愛美らしさを感じた。
でも、きっと、二度とそう思うことはないだろう。