きたない心をキミにあげる。
『進級決まったよー』
帰りの電車で、圭太にラインを送ってみた。
すぐに『おめでとう』と返ってきた。
いつも通りヒマしてるんだろう。
まあ、今度何かお礼してあげなきゃな。ポッキー取ってくれたお礼もかねて。
今日は短縮授業で、かつ、バイトが休み。
お母さんにも進級決定の報告をしようと、早めに家に向かった。
お兄ちゃんが死んでしまって3ヶ月ちょっとが経った。
私は普通の毎日を生きている。
ショックで泣いていた毎日が不思議なほどに。
左手で吊り革を握る。
袖が少し落ち、ピンク色になった傷跡が目に入った。
圭太に言われてから、カッターナイフは通常の用途以外には使用していない。
傷も消えかけている。むしろ治りかけでかゆいくらい。
……これで、いいんだよね。お兄ちゃん。
いや、もうお兄ちゃんはいないんだ。
いくら遺影に話しかけたって、記憶の中のお兄ちゃんに話しかけたって、意味はない。
ずっとそう自分に言い聞かせていた。
死を受け入れなきゃいけないと思った。
そうしないと自分を保っていられなかったから。
だけど、圭太と仲を深めるごとに、
どうしてあんなにお兄ちゃんを好きだったのかが、分からなくなった。
『弘樹は愛美ちゃんが思うような人じゃないんだよ。所詮、あいつも父さんと同じ、なんだよ』
むしろ、私が好きだった人は、
どんな人だったのかが分からなくて、不安だ。