きたない心をキミにあげる。
「ただいま!」
私は玄関の扉をもう一度開けて閉めてから、ローファーを片手にリビングのドアを開けた。
「あ、愛美帰ってきちゃった。じゃあまた電話するねー」
お母さんはそう言って、スマホを手離した。
「おかえり。珍しく早かったじゃない」
「まあ、今日バイト休みだったから」
台所から煮物らしきいい香りがただよっている。
お母さんは私が手にしたローファーを目にしてこう言った。
「愛美、どうしてわざわざ自分のもの全部部屋にしまうの? 部屋に鍵まで取り付けて。お母さん掃除できないでしょ。鍵の番号教えてよ」
「別に。理由はないけど。掃除は自分でやってるからいい」
「家族なんだから、もうちょっと歩み寄ってくれない? お父さんがいつも悩んでるのよ。愛美に父親だと思われていない、って。そんなんじゃお兄ちゃんも成仏しきれないわよ」
「……は?」
さっきまで気味が悪いって言っていたくせに。
ここでお兄ちゃんの話を出されたことに対して、更に腹が立った。
「今の話とお兄ちゃんは関係ないでしょ?」
「関係あるでしょ。私たちが幸せになるよう、天国で願ってるはずなんだから」
「何言ってるの? お兄ちゃんは死んじゃったんだよ。ただの骨になっちゃったんだよ。天国で私たちを見守ってるとか、私たちが幸せになるよう祈ってるとか、そんなこと考えるのはこっち側のエゴだ!」
「愛美……」
「へぇ、それとも。私も人間味がない? 気持ち悪い? お兄ちゃんと一緒?」
「……何よ? お母さんの電話、ぬすみ聞きしてたの?」