きたない心をキミにあげる。


急にお母さんの顔色が変わった。


仕事で疲れて、イライラして帰ってきた時の表情だ。



構わず私は続けた。



「良かったね、養ってくれるいい旦那さんができて。息子も死んだから、かかるお金が減って更に安心、みたいなー? いい家具とか食器とか買って、外ヅラよくしていいお母さんごっこして。本当バカみたい」


「愛美、黙りなさい」


「お父さんはお母さんのことなんて見てないよ。だって私を……!」


「お父さんが何よ」


「私のこと……」



娘ではなく、好みの女子高生として気持ち悪い目で見てくる。


とは言えなかった。



自意識過剰だと受け取られるだけだし、証拠もない。



どう伝えたらいいか分からず言葉に迷った瞬間。


パンとお母さんに頬を殴られた。



勢いでローファーとカバンを落としてしまう。



「……もしかしてあんた、お父さんのこと狙ってるの? だから気を引こうと冷たい態度取ってるわけ?」


「そんなわけないでしょ?」


「もうなんなのよ! どうしてあんたはいっつもそうなの!? お母さんを困らせて本当に楽しい?」


「は? 何でそうなるの?」


「お母さんから幸せを奪わないで! この泥棒猫!」



もう一度、パーンと逆側の頬を叩かれた。


キーンと耳の奥で何かが揺れる音がした。



だめだ。こういう時のお母さんは、何を言ってももう受け入れてくれない。


久々にヒステリーを起こさせてしまった。


再婚してからは、初めてか?



「……っ!」


「愛美! 待ちなさい!」



それにしても、泥棒猫って。


ドラマとかの見すぎじゃね? さすがヒマな主婦~。



泣かないよう、心の中で母に毒づきながら、私はカバンだけを片手に急いで家を飛び出した。



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