きたない心をキミにあげる。
「あはは。足、痛いのは圭太の方でしょ」
そう伝えても、圭太はなお心配そうな目で私を見つめてくる。
メガネ越しの瞳は、しっかりと私の姿をとらえている。
「……何か、あったの?」
ぼそりと彼の口から声が漏れた瞬間、「にゃー」と鳴いてみた。
「なにそれ」
「泥棒猫」
「え?」
「……ってお母さんに言われた。お父さんのことバラそうとしたら変に誤解されちゃって。思わず裸足で駆けてきちゃったよ」
「…………」
「いや、裸足で追いかけたのは魚をくわえたドラ猫だっけ? いや、財布を忘れたからだっけ? あれ、どんなんだっけ?」
私が1人で悩んでいると、
「ドラ猫で合ってるよ。財布は2番」
と教えてくれた。
「とりあえず家、入る?」
家入れよ、って言えないところが圭太らしい。
圭太らしくて、安心する。
「うん」とうなずくと、肩を優しく叩かれた。
それだけで、目の奥がぎゅっと熱くなった。