きたない心をキミにあげる。
思った通り、階段を降りた先の廊下で、愛美の父親が待ち構えていた。
「愛美ちゃん。やっと出てきてくれたね」
「…………」
愛美は無言のまま、父親の隣を通り過ぎようとする。
しかし、腕をつかまれ制されていた。
俺は階段下に置いていた松葉杖を拾い、脇に抱えた。
「やだ! 離して!」
「そんな荷物持って、どこ行くの?」
明らかに愛美はおびえた顔をしていた。
ポニーテールを激しく揺らし、腕を振り払おうと踏ん張っている。
駅前での騒ぎの時よりも、必死に抵抗していた。
やっぱり父親と何かがあったのか?
俺はゆっくりと松葉杖で前に進み、愛美をつかんでいる父親へ近づいた。
そして――
「本当すみません! うわぁ~!」
情けない声をあげ、松葉杖を振り回した。
狙ったのは彼のすねのあたり。
ゴスッと鈍い音がして、「うっ」という、うめき声が廊下に響いた。
やべ、完全にクリティカルヒットじゃん。
ケガさせてなければいいんだけど……。
「圭太、ナイス! 急いで!」
がくりと膝を崩した愛美の父親の隣を2人で通り抜け、家を出た。