きたない心をキミにあげる。



あの後――圭太の家を出て行った後。



家に帰ると、お母さんはいなかった。


急におばあちゃんの具合が悪くなったとメールが入っていた。



部屋に荷物を置いてから、冷蔵庫で簡単なものでも作ろうと思いリビングに降りると、ちょうどお父さんが帰ってきてしまった。



「やっと帰ってきてくれたね。本当に不良な娘だ」


「やだ、来ないで!」


「そろそろお仕置きが必要だと思ってたんだよ。お母さんにもひどいこと言ったんだって? それは良くないなぁ」


「やっ!」


「そんな嫌がるなよ。弘樹には許してたんだろ? だったらお父さんともいいじゃないか」



初めてお父さんに襲われかけた。


リビングのソファーに押し倒され、必死になって抵抗した。



お腹を蹴って、クッションを投げて、ローテーブルを蹴飛ばして。


何とか振り切って階段を駆け上った。


急いで鍵を開けて部屋に飛び込み、内側から鍵を閉めた。



「愛美ちゃん開けて! 急に申し訳なかった。仕事でイライラすることあって」



どんどん、と何度もドアが叩かれる。


布団にくるまり必死に耳をふさいだ。



無視していると数字ボタンがガチャガチャと押される音がした。


恐怖で心臓と体が震えた。



「ねえ、本当にさっきはごめん。鍵の番号教えてよ。これじゃあ時間かかっちゃうよ」



しばらくお父さんは粘っていたが、音が途切れ階段を下っていく音が鳴った。


ほっと一息つきながらも、部屋を出ることはできなかった。


日をまたいでも、土曜日。


お父さんの仕事は休みだ。ヤツはずっと家にいる。



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