きたない心をキミにあげる。


圭太に言われた言葉が胸に突き刺さっていた。


彼といる時間は楽しかった。でも、図星かもしれなかった。



もう、圭太を頼ることはできない。終わりだ。



手にしたカッターを上にかかげ、鋭い灰色の刃を見つめる。



お兄ちゃんが事故に遭ったのは私にプレゼントを買ったせい。


お母さんも私がいない方がお父さんと2人でラブラブできる。


お父さんは『女子高生である私』にいやらしい目を向けてきて気持ち悪い。



やっぱり私は、このまま消えた方がいいの?



左手首にひんやりした刃をあてる。


それを思いっきり手前に引いた。



「つっ」



治りかけた傷跡に、再び切り込みが入る。


血がじわりとにじむ。


切り裂かれた肌の上でしずくを形成していく。



もっと強く引けばいいのに。どうせこんなんじゃ死ねないんだから。



だけど――



『自分傷つけるくらいなら、俺のこと傷つけていいから』



彼の優しさが、温もりが、心の中に流れ込んでくる。



「うっ……ぅ」



自分の涙がぽたりと手首に落ち、赤い血と混ざりあう。



圭太の涙と合わさった感覚を思い出し、それ以上傷つけることができなかった。



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