きたない心をキミにあげる。
「ご、ごめん!」
水越圭太は我に返ったようで、頬を赤らめ必死に謝ってきた。
私は動くよ、と声をかけて、倒れた松葉杖のもとへゆっくりと進んだ。
肩に手をのせてもらいながら、松葉杖を拾い彼に渡す。
すでに歩行者信号は赤に変わり、目の前の県道は右へ左へと車が行き交っていた。
「何? 急に。危ないじゃん! 転んだらどうすんの?」
「……ごめん。だって車が」
「さっき歩行者信号、青だったでしょ」
「でも……」
松葉杖を両脇に抱え直した水越圭太は、視線をそらし、言葉をにごす。
そして――
「青でも車、突っ込んでくるかもしれないじゃん」
と泣きそうな表情でつぶやいた。
大小さまざまなエンジン音をBGMに、私ははっと思い出した。
後で知った、お兄ちゃんとこいつが事故に遭ったシチュエーションのことを。
――赤信号を突っ切って暴走した車による死亡事故。