きたない心をキミにあげる。
解放(A)
赤信号で車が停まるのは、交通ルールで決まっている、当たり前のこと。
頭では分かっている。
だけど――
『待って!!』
弘樹の妹、佐藤愛美が病院前の横断歩道を渡ろうとした時、全身が恐怖に包まれた。
急に思い出したのだ。
予想外なんて言葉じゃ片付けられない、『当たり前』が崩れ去った瞬間を。
しかし、日常は突然戻ってきた。
『何? 急に。危ないじゃん! 転んだらどうすんの?』
車は横断歩道の手前で停まり、俺は右足に感じた激痛とともに佐藤愛美に思いっきり体を預けてしまった。
その体の細さ、柔らかさに一気に我に返る。
俺を重そうに抱える彼女の感触にどきっとすると同時に、
弘樹だけじゃなく、彼の妹にも助けられている自分が情けないと思った。
『退院したよ』
俺はスマホを手にして悩みまくっていた。
うーん。この一言だけでいいのか?
簡素すぎるし、何か他に一言添えた方が……。
と悩んだところで、次に続く文章が考えられない。