きたない心をキミにあげる。
「はぁ、はぁ、はぁ」
肩で息をしながら、急いで停止ボタンを押した。
そうだ。
原作を読んだから知っている。交通事故だ。
動悸が激しくなり、冷たい汗が吹き出す。
『圭太!』
弘樹に突き飛ばされた瞬間を思い出したのだ。
必死な声をあげた後に浮かべた、どこか諦めにも似た笑顔。
ぼやけた視界の中、猛スピードの車に跳ね飛ばされた彼の体。
あいつは死んだのに、どうして俺だけ生きているんだ?
俺が横断歩道で立ち止まらなければよかったのか。
そのプレゼント誰にあげるのか、聞かなければよかったのか。
それとも、ご飯はショッピング街のファーストフードとかにすればよかったのか。
たくさんの後悔が一気に押し寄せてきて、ぎりっと右足も痛んだ。
「……あ」
ブー、ブー。
スマホが振動している。
心を落ち着かせながら、俺は手を伸ばした。
『水越圭太ですね。退院おめでとうm(__)m』
佐藤愛美からのラインだった。
何だよ。俺が送った文面とほぼ同じじゃん。
あんなに考えて文字を打った俺がバカみたいだ。
まあ女子とラインすることなんて、よっぽどの用事があるとき以外無いからなぁ。
――あんたが死ねばよかったのに、って言ったの謝る。別に死ななくていいから。
涙を流して俺を殺そうとしたかと思えば、その数日後、よろよろの俺を病院まで送ってくれた。
倒れそうになった俺を支えてくれた。
車は、赤信号でちゃんと止まった。
訳が分からない。
ただ、早まった鼓動はいつの間にか元に戻っていた。