きたない心をキミにあげる。
「あんた、一人なの? ご飯は?」
「母さん今日残業で。もうすぐ帰って来る。そっちこそ食べた?」
「ううん」
「じゃあ、ちょうど良かった。母さん料理いっつも作りすぎるから。俺、今あんま動けないしちょっと太っちゃって」
リビングのソファーの隅に佐藤愛美は座っている。
2人きりの状態に緊張しているのか、なぜか話しすぎてしまう俺。
対して、佐藤愛美は無表情のまま、俺を見上げた。
う……確かに、可愛いよな。
友達がアイドル級って言っていたのを思い出す。
一重まぶたで薄めの顔の弘樹とは、あまり似ていないけど。
「座れば。立ってるのしんどいでしょ」
「え? あ、うん」
反射的に返事をしてしまったが、
目の前の2人掛けソファーには佐藤愛美が座っている。
えーと。座るって……その隣?
近くないっすか!?
でも、わざわざ奥の食卓に移動するのも不自然だよな。
頭の中をざわつかせながら、松葉杖を壁に立てかける。
左足だけで恐る恐るソファーに近づいたが。
「痛っ!」
「わっ!」
ミスって右のギプスの先端――つま先を床にこすってしまった。
激しい痛みが全身に響く。
バランスをくずした俺は、体の左側から勢いよくソファーに倒れ込んだ。
やわらかな感触と、甘い香りに包まれた。