きたない心をキミにあげる。
鍵を開けてドアを開き、中に入り鍵を閉める。
いつも通りローファーを置き、制服を脱ぎクローゼットにしまう。
お兄ちゃんがもういないのは分かっている。
部屋をそのままにしていても仕方がないのも分かる。
でも、そこにお父さんが来るのは嫌だ。
『弘樹がいなくなって寂しいのは分かるよ。愛美ちゃんと一緒。僕も実の息子を亡くして苦しいんだ……』
あの時、お兄ちゃんの部屋で寝てしまった時。
ネクタイをゆるめたお父さんが、私の頭に触れた瞬間、全身に鳥肌が立ちそうになった。
あのまま動けなかったら、私はお父さんにどうされていたのだろう。
家での居場所がどんどん失われていく。
お兄ちゃんと一緒にいたい。
お兄ちゃんのところに行きたい。
いや、お兄ちゃんはもういないんだ。ただの骨になったんだ。
『愛美、好きだよ』
優しい声が頭によみがえり、かき消すように首を振る。
思い出したってしょうがないことだ。もう過去のことだ。
でも、お兄ちゃんのいない世界は……もうつらいよ。