きたない心をキミにあげる。
「お父さんの……バカー!!」
お腹の底から私は声を出した。
その声は、駅舎や人や車に跳ね返って戻って来るほど。
お父さんも驚いたようで、私をつかむ手がびくっと震えた。
すかさず左右を見渡す。
ロータリー奥の交番で、警察が動く様子が目に入った。
よし、もう一歩だ!
「嫌だ! やめてー! 離してー!!」
そう大声でわめいてから。
お父さんの手を外そうとぶんぶんと腕を振った。
オーバーアクションで体をひねったり、足をばたつかせたり。
きっと通行人にも状況が伝わっただろう。
警察がこっちに向かっているのを確認してから、
圭太には「タクシー乗って待ってて」と口パクで伝えた。
え? ええっ? とテンパりながらも、彼はロータリーの逆側のタクシー乗り場へと進んだ。
「どうされましたか?」
「いえいえ、ただの親子ゲンカでして……」
警察のおじさんが到着したと同時に、パッとお父さんの手が離れる。
「お父さんなんか大っ嫌い! 今日は親戚のとこ泊まるから!」
私はそう言い捨て、圭太が乗っているタクシーへ走った。
窓越しにお父さんに視線を向けると、警察にぺこぺこと言い訳をしている様子が見える。
上手くいったようだ。良かった。
これ、大丈夫なの? と隣で圭太が慌てていたが、
「とりあえず出してください!」
と私は運転手のおじさんに伝えた。
「おおぅ、はいよっ」
おじさんは姿勢を正し、タクシーを走らせてくれた。