きたない心をキミにあげる。
自我(A)
どうして再び俺は愛美とタクシーに乗っているのだろう。
対向車のライトによって、愛美の姿が明るく照らされる。
彼女は松葉杖とスーパーの袋越しに、俺を見つめていた。
「ね、圭太。どこ行く?」
「どこって……とりあえず俺の家?」
「このままホテルでも行っちゃう?」
「ええっ!?」
「あはは、冗談だよ。めっちゃテンパってるし。ウケるー」
なんだよ、もう!
さっきはあんなにおびえていたくせに。
駅前での出来事が全部、夢みたいだ。
とりあえず食材を母に届けなければならない。
俺の家に向かうことにした。
それにしても。
父親に連れていかれそうになった愛美は、
本気で嫌がっている表情だったし、体も震えていた。
他人の事情に踏み込んでいけないことは分かっている。
愛美の父親からの、これ以上入り込んでくるなというサインを強く感じた。
あのバリアは弘樹が持っていたものと、同じ。
いつもなら引き下がっていたと思うが、
弘樹のことを深く知らないままに、一生の別れを迎えたことが悔しかった。
だからだろうか、思わず口を出してしまった。
自分でも信じられないけど。
これでいいのか? 弘樹……。
それとも、お前にも、もっと早くこうすればよかったのか?