きたない心をキミにあげる。
☆
ぐおー、と母のいびきが壁越しに聞こえた頃。
俺はよろりと起き上がり、リビングへ向かった。
愛美が寝ていたら自分の部屋に戻ろう。
もし、起きてたら――
「あ……」
暗いリビングに、一点だけスマホらしき光が灯っていた。
やっぱり、起きてたか。
右足を引きずりながらソファーベッドの横を過ぎ去り、台所の電気をつけた。
2つのコップに麦茶を入れて、彼女のもとへ向かう。
うっすらとリビングにも光が届き、体を起こす愛美のシルエットが浮かび上がった。
彼女は髪の毛を上に結わえながら、
「何? 襲いに来たの?」
と半笑いでつぶやいた。
「んなわけないじゃん」
「だよね。あんたヘタレっぽいもんね」
「あのさ……」
「寝れないし、テレビつけていい?」
「愛美」
低い声で、彼女の名前を呼ぶ。
すると、ようやく大人しくしてくれた。
ジャージをだぼっと着る愛美は、急に真顔になり俺を見つめる。
ちょっとだけ迷った後、俺は彼女の隣に腰をかけた。
「あのさ、お父さんに連絡した? 警察来てたけど大丈夫だったの?」
気にかかっていたことを彼女にぶつけた。
奥の部屋にいる母を起こさないよう、小さい声で。
「うん。普通に帰れたみたい」
「なら良かった。でも、今日ここにいるのは……」
「言ってないよ。本当のお父さんのとこ行ったってメールしといた。そしたらあいつどうにもできないから」
「本当の……?」
「そう。私、半年前にあの家に来ただけ。お母さんの連れ子として」