きたない心をキミにあげる。







ぐおー、と母のいびきが壁越しに聞こえた頃。


俺はよろりと起き上がり、リビングへ向かった。



愛美が寝ていたら自分の部屋に戻ろう。


もし、起きてたら――



「あ……」



暗いリビングに、一点だけスマホらしき光が灯っていた。



やっぱり、起きてたか。



右足を引きずりながらソファーベッドの横を過ぎ去り、台所の電気をつけた。


2つのコップに麦茶を入れて、彼女のもとへ向かう。



うっすらとリビングにも光が届き、体を起こす愛美のシルエットが浮かび上がった。



彼女は髪の毛を上に結わえながら、


「何? 襲いに来たの?」


と半笑いでつぶやいた。



「んなわけないじゃん」


「だよね。あんたヘタレっぽいもんね」


「あのさ……」


「寝れないし、テレビつけていい?」


「愛美」



低い声で、彼女の名前を呼ぶ。


すると、ようやく大人しくしてくれた。



ジャージをだぼっと着る愛美は、急に真顔になり俺を見つめる。


ちょっとだけ迷った後、俺は彼女の隣に腰をかけた。



「あのさ、お父さんに連絡した? 警察来てたけど大丈夫だったの?」



気にかかっていたことを彼女にぶつけた。


奥の部屋にいる母を起こさないよう、小さい声で。



「うん。普通に帰れたみたい」


「なら良かった。でも、今日ここにいるのは……」


「言ってないよ。本当のお父さんのとこ行ったってメールしといた。そしたらあいつどうにもできないから」


「本当の……?」


「そう。私、半年前にあの家に来ただけ。お母さんの連れ子として」


< 74 / 227 >

この作品をシェア

pagetop