きたない心をキミにあげる。
「うん」
「たぶんお兄ちゃんも」
「…………」
ああ、そういうことか。
だから弘樹は彼女を作らなかったし、妹の存在すら誰にも教えなかったんだ。
それは、愛美が弘樹にとって
『誰にも秘密にしてる、大切な人』だったから。
誕生日にアクセサリーをプレゼントする相手。
それがどんな人なのか、さすがの俺でも分かる。
「引くでしょ。こういう話」
「別に」
「おかしいじゃん。血はつながってないけど兄妹だよ? あ、そういうアニメとかラノベって結構あるとか?」
「……まあ、そういう作品、無いことはないけど」
普通に話せてはいるけど、うまく呼吸ができない。
愛美は、あの事故によって、大切な兄で、かつ大好きな人を失ってしまったんだ。
最後に見た弘樹は、どこか悲しそうな笑みを浮かべていた。
どうして弘樹は逃げずに俺を助けたんだ?
そんなに大切な人がいたのに。
ぎり、と床に置いた右足が痛む。
「……ねぇ、圭太」
「ん?」
「もうちょっとだけ聞いてくれる?」
彼女のか細い声は、ほんの少し震えていた。
前に間近で見た、彼女の揺れる瞳を思い出す。
どきどきと鼓動がうるさくなりつつも、俺は無言でうなずいた。