きたない心をキミにあげる。
「今日、お兄ちゃんお墓に入っちゃった。もういないのは分かってるけど、骨すら家になくなっちゃった」
「うん」
「お兄ちゃんね、生きてる時、家でお父さんからずっと私を守ってくれたんだ」
「……守るって?」
「ああ見えて、あの男JCとかJKが大好きみたい。私のことそういう目で見てきてキモイの。お兄ちゃんが教えてくれていろいろガードしてくれた」
「え……」
あのしっかりしていそうな弘樹の父が? そんな趣味あるの?
人は見た目に寄らないのか。
それとも、表面しか知らないからか。
とにかく俺はその事実に驚いていた。
「もうあの家帰りたくない。お兄ちゃんはいないし。お父さんとは顔合わせたくないし」
「…………」
頭の中がこんがらがる。訳が分からなくなる。
冷静になろうと、両手で額を押さえて息を吐く。
隣にいるこの子は、どうしてこんなに悲しい運命を背負っているのだろう。
いや、背負わせてしまったのは俺か?
俺が弘樹と一緒に買い物に行かなければよかったのか?
弘樹が生きていれば、愛美は苦しまずに済んだのか?
いや――今考えるべきことは、違う。
ぐしゃりと前髪をにぎり、小刻みになりかけた呼吸を落ち着かせる。
弘樹がいない今、俺ができることは何だ?
「圭太、大丈夫? どしたの?」
愛美は心配そうな声を出し、つんと肩をつっついてきた。
「や……俺がもっと強かったら、さっき駅前で愛美のこと普通に守れたのかなぁ。結局、愛美が自分で上手くやりこんだ感じだったし」
「…………」
「ま、俺なんかじゃ無理かもしれな……」
肩にやわらかい重みが加わり、言葉を止めた。