きたない心をキミにあげる。



「え、何……これ」



空になったカラーボックスをドアの近くに移動した時のこと。


私は不自然につけられている壁の傷に気がついた。



鋭くひっかかれた傷のようで、表面の凸凹が削り取られている。


ずっと家具で隠れていたから気がつかなかった。



近くに行き、よく見てみる。



それは何重にも削られ、大きな傷に小さな傷が絡み合っていた。


執拗にかきむしった形跡が見て取れた。



これ、お兄ちゃんがつけたの?


いや、まさか。


この家は中古らしいから、もともとあったものかな。


でもこんな傷があったら、普通、壁紙張り替えるでしょ。



そう考えながら、壁に貼られたカレンダーをはがしにかかった。



晴れた空に飛行船が浮かんでいる写真。その下に、12ヶ月分の日付が印字されたもの。


澄み切った鮮やかな水色の風景は、私も気に入っていた。


もらっちゃおうかな。



背伸びして上の画鋲を外す。


カレンダーの上の部分がべろんと頭に降って来る。



「えっ……!?」



下の画鋲を抜き、床にはらりとそれが落ちた瞬間。



私が目にしたのは、壁の穴だった。


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