きたない心をキミにあげる。
「圭太!」
「えっ!?」
私は彼の右手をつかみ、上に持ち上げた。
「はい、右見てー。左見てー。もう一度、右。はい、ちゃんと車止まってるねー!」
そう確認してから、横断歩道を渡る。
圭太は「なにそれ、懐かしい」と笑いながら、手をあげたまま着いてきてくれた。
光を放つ車は、白線手前でじっと止まっている。
私たちはゆっくりと足元の白と黒のボーダーの上を進んだ。
歩行者信号が赤になったのは渡り終えた後。
止まっていた車がエンジンをうならせ動き出す。
「こう渡れば、大丈夫でしょ」
圭太の手を離し、ぽんと肩を叩く。
「……うん。ありがとう」
そうつぶやき、圭太は再び松葉杖を前に出して進みだした。
少しはにかんで、笑いをこらえたような表情をしている。
圭太を安心させることができたようで、嬉しかった。