ネコ耳娘の恩返し
「あれ?瀬川じゃん。ちょっと待ちなさい!」
タマミを連れてピロティを通り抜けようとしたところへ、いきなり背後から高圧的な声がかかった。
「うぇ。金沢」
よりによってこんなときに、明奈の親友・金沢佐緒里に捕まってしまった。
「金沢!?ひさびさに見たと思ったらなんなのその生意気な態度!年はおなじでも学年はこっちのが上よ!?先輩と呼びなさい先輩と!」
「ハイハイ金沢せんぱい…いま急いでるんで、見逃してもらえませんか」
「急いでるって、なによ」
何って、なんでこの女はこうも自信ありげに上から目線なのだろう。
「授業に出るんですよ!」
最後まで言い終わらないうちに、クリアファイルを丸めた凶器でパコン!と頭をはたかれた。いくら温厚な俺でもしまいにゃ切れっぞこのクソアマ。
「なんすか突然!」
「授業って文化人類学でしょ!女連れでなにたわけたこと言ってんのよ!新しい彼女です、ってアキに見せつけたいわけ!?サイテー!」
ああ、そういう思考回路か…なるほど。
「違いますよ、この子、一年生で。教室わかんないって言うから、目的地おんなじだし案内してやろうと思っただけで」
とっさに考えたにしてはナイスな言い訳じゃないか。タマミを振り向くと、俺の機転にとくに感心したふうでもなく、じっと佐緒里を観察していた
「そうなの?アキと雰囲気似てるし、いかにもあんたのタイプっぽい可愛い子だから、早くも乗り換えたのかと思った。ていうか、気をつけたほうがいいわよあなたも。よりによってこんな、ウサギの皮かぶった飢えた狼みたいな欲求不満男に声かけるなんて。教室なら、おねーさんが案内してア・ゲ・ル」
うってかわったような猫なで声でそう言うと、佐緒里はタマミの手を引いて、エレベーターへと向かっていった。
やべ!
俺の妄想力の潜在的影響をうけてるうちは大丈夫かもしれないが、いつ猫の姿にもどるやもしれないタマミから目を離すのは非常に危険だ!
俺はあわてて二人のあとを追った。


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