吾輩はネコである
黒猫
迷子の迷子の
「あっ、ネコ」
ニャン、と媚びる気配も無い声で鳴くと、そいつは顔をそらした。
顔というか、体ごとだ。私に背を向けて、電柱の周りをクルクル廻る。
「ネコ、ほら、おいで」
ネコの目線に合わせてしゃがむと、ランドセルがカタカタ音をたてる。
「ニャ」
頭を撫でると目を細めて気持ち良さそうにする割に、鳴き声は依然として素っ気ないままだ。
喉をゴロゴロさせる訳でもないし、すり寄ってくるわけでもない。
まだ子猫なのに、他の猫と一緒にいる所は見たことがない。
「飼ってやろうか?」
「フッ」
慈悲に溢れたあたしの提案を、そいつは鼻で笑う。ネコの癖に、生意気だ。
初めて会ったとき――というか、見かけたとき――は、人間の私が見ても分かるくらいに、不安げにさまよっていたのに。
「ネコ」
「ニャーン」
まったく、可愛い奴だ。
その黒猫も、いつしかどこかにいなくなり、ちょっと寂しかったけど、それも最初だけで、ランドセルは引退して、月日は流れて、ネコのことなんて、思い出さなくなって、そして私は――――
アイツ
猫に出逢った。