吾輩はネコである
ガッシャーン、と派手な音をたてて、自転車が横転する。乗っていた私も、同じく。
「うぅっ……」
溝にタイヤがはまったらしい、痛いのと、何が何だか分からないのとで、涙が込み上げてくる。
立ち上がる気力も無く、しゃがみこんで、べそをかく。
記憶喪失?
登校中に?
自分の、名前すら思い出せないの?
「あぁ、もう、ほんと、なんなの……」
神様、私が何か悪いことをしましたか?
してたとしても、何でだか全部忘れてしまいました。
どうしよう、本当にどうしよう。
渦巻く不安は凝縮されて、涙として私の視界を埋めていく――――
「迷子、見つけた」
凛と、透き通るような声。どこかで聞いたことのあるような、無愛想で飾り気の無い声。
ハッと驚いて、膝に埋めていた顔を上げる。
その人は、私の目の前にいた。