眼鏡とハンバーグと指環と制服と
「夕葵さん!
わがままいわないでください!
あなたが閉じこもっているあいだ、会長ともよく相談しました。
これが最善の策なんです。
……わかって、ください」

「……そんな」

……わけがわからない。
跡を継げといってみたり、帰れといってみたり。
おじいさまも柏木さんも、なにを考えてるの?

「あとのことは心配されなくて大丈夫です。
すべてこちらでなんとかしますから」

「…………」

なにもいえなくてただ俯いた。
いまさら、芝浦の家にいたことをなかったことにしろといわれても、できるは
ずがない。
けど、これ以上柏木さんを苦しめるのも嫌で、……いう通りにするしかないん
だろうな、って思った。


一時間ほど走ると、懐かしい風景になった。

……もうすぐ、夏生の家に着く。

なんて話したらいいんだろう?
どんな顔して会えば。

柏木さんは夏生の家の前に車を停めた。
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