眼鏡とハンバーグと指環と制服と
「……私はこれで」

「ありがとう、ございました」

振り返ると、柏木さんはまた黙って頷いてドアを閉めた。

……きっと。
もう二度と会うことは、ない。


「ゆずちゃん、ごめんね」

夏生に手を引かれて一緒にソファーに座ると、ぎゅっと抱きしめられた。

……夏生のにおい。
懐かしい。

「僕があのとき、早く学校辞めなかったら。
ゆずちゃん苦しめて、こんなことになってしまって。
もっとちゃんと、ゆずちゃんと話すべきだった」

「……夏生は悪くない。
それに私は……夏生を、裏切った」

「ゆずちゃん?」

怪訝そうに夏生が私の顔を見る。

……苦しい。
息が詰まりそう。


< 586 / 613 >

この作品をシェア

pagetop