眼鏡とハンバーグと指環と制服と
「だって私は……柏木さんが好きだった。
夏生がいるのに柏木さんのことが好きで。
夏生のことずっと愛してたけど、でも柏木さんも好きで」

「……うん」

「夏生と一緒にいられないのはつらいけど、柏木さんが傍にいてくれるんだっ
たら頑張れる、って。
柏木さんに傍にいて欲しい、って」

「……苦しかったね」

ゆっくりと髪を撫でる夏生の手は心地いい。
涙が出てきそうになって必死で耐えた。

……だってこんな私は、夏生の腕の中で泣く資格なんてない。

「ゆずちゃん。
……我慢しないで、泣いていいよ」

「……っ」

「僕だってよくなかったんだ。
いくら脅されたからって、離婚届に判ついて。
ゆずちゃんは自分の意思で出て行ったんだって、自分に言い聞かせて迎えにも
行かないで。
あの家にゆずちゃんやったら、どうなるのかわかってたのに」

「……でもっ……私はっ」

「いいよ、いまは泣いて。
泣いて、すっきりして、それから考えよう?」
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