眼鏡とハンバーグと指環と制服と
「……うん……」

涙は止めどなく流れていく。
まるで夏生と別れたあの日から溜まっていた涙が、全部出て行くみたい。
泣いて泣いて泣き疲れて、……そのまま夏生の腕の中で眠ってしまった。


……見上げた天井は、いつもと違ってて戸惑った。
次第にあたまがはっきりしてきて、夏生と暮らした家の、自分の部屋だと気が
付いた。
起き上がって部屋の中を見渡すと、出て行ったあの日からなにも変わってな
い。
なんとなく机の前に立つと、あの日置いた婚約指環のケースだけが載ってい
た。
箱を開けると、指環はちゃんとそこに収まってる。

……だけど。

結婚指環はどこを探しても見当たらない。

「ゆずちゃん、おはよー」

「……おはよう」

下に降りると、夏生がキッチンに立ってた。

「もう朝ごはんできるからねー。
ちょっと待っててね」

「え、あ、……うん」

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