御曹司と偽装結婚はじめます!
「名前は?」

「この子、さっき会ったばっかりなんで、まだつけてません」


私がそう言うと彼は吹き出す。


「違うよ、君の」

「あっ……」


恥ずかしい。
子猫のことで頭がいっぱいで、自分のことを聞かれているなんて少しも思わなかった。


「雨宮雛子(あまみやひなこ)です」

「雨宮って、今日の天気にぴったりの名前だな」


彼はすごい勢いで動くワイパーを見てクスッと笑う。


「たまたまです」


私は少し口を尖らせながら言った。
雨女なわけじゃない。今日はたまたまだ。


「あぁ、悪い。俺は香川卓(かがわすぐる)」


ハンドルを握る彼は、真っ直ぐ前を向いたままそう口にした。


「結婚式があったの?」

「はい。友達の……」


この服装に引き出物の大きな紙袋。
結婚式帰りだということはすぐにわかっただろうけど、今の私はびしょ濡れの残念な姿だ。
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