御曹司と偽装結婚はじめます!
「あーぁ、ついてない」


おろしたての九センチヒールの黒いパンプスはもうびしょ濡れ。

天気予報では明日の朝まで激しい雨が続くと言っていたので、やむのを待つわけにもいかない。
それに、タクシー乗り場は長蛇の列ができていて、いつ乗れるのかもわからない。


私は仕方なくかさばる引き出物を持ち直し、家へと続く緩やかな坂道を歩き始めた。

これだけ強く降ると、もはや傘も役に立たない。
スカートは濡れて足にまとわりつき、気持ちが悪かった。


普段は車の通りの激しい通りなのに、この雨のせいかいつもより車も少ない。
煌々とつけられたヘッドライトが、時折雨粒をキラキラと光らせているものの、心の余裕がない私には到底きれいだとは思えなかった。


――ミャア。


「ん?」


バチバチとアスファルトに叩きつける雨音にかき消されてしまったけれど、今、猫の鳴き声が聞こえた気が……。
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