御曹司と偽装結婚はじめます!
「おい、大丈夫か?」


誰かにそう聞かれている気がしてゆっくり顔を向けると、男の人が駆け寄ってきて目を見開く。

傘もささずにしゃがみ込んだその人はかなり背が高く、百八十センチは優に超えていそうだ。彼は二重の切れ長の目を私に向け抱き起してくれた。


「どこか痛む?」

「……いえ」


痛いかどうかより……。


「よかった……」

「は? なにがよかったんだ。なんで飛び出したり……あっ」


私が胸に抱えていた子猫に気がついた彼は、驚いたような声を上げた。


「コイツを守りたかったのか」

「……はい」


私の手の中の子猫は、つぶらな瞳で私を見上げている。


「ふー。自分が死んだらどうするんだ」


呆れ声を上げた彼は、「ケガしてるじゃないか」と私の膝に視線を送る。


「これくらい、大丈夫です。ご迷惑をおかけしました」


本当は怖かった。
あのときは無我夢中で、子猫の命を救うことしか考えていなかった。
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