御曹司と偽装結婚はじめます!
まるでモデルのような外見のこの人が、お医者さまだとは一見誰もわからないだろう。


「でも、たいしたことありませんし」

「擦過傷を甘く見ちゃダメだ。ちゃんと治療しないと化膿する。それに、その猫の方も気になるしね」


彼はもう一度子猫を撫でると、車を発進させた。

渡りに船というのはこういうことを言うのかもしれない。
子猫をひっくるめてなんとかしてくれようとしている彼を信じてついて行くことにした。

だって、猫を見つめる彼の目がとても優しかったから。


「この子、大丈夫でしょうか……」


プルプルと震えが止まらない子猫が心配で彼に尋ねると、「猫のことまでわからない」と返されて納得する。
お医者さまとはいえ、動物のことまでわからないのは当然だ。


「ただ、この雨で体温が下がっているだろうから、とにかく温めてやらないと」

「はい」


私はそう言われて、タオルでできるだけ子猫の体を拭いてやった。
< 9 / 32 >

この作品をシェア

pagetop