プロポーズ(第2話)
あたしは先月で三十歳になってしまった。
できれば彼と結婚したいし、子供もほしい。
でも彼は仕事に必死になっていて、結婚を考えるどころではないようだ。
あたしは彼に結婚を迫って重い女と思われたくはない。
かといって、このままの関係をずるずると続けて、彼にとって都合のいい女になるのもいやだ。
あたしは迷う。
そう遠くない日に、あたしは決断しなければならないだろう。
きっぱりと別れるのか。それとも、ずるずるといくのか。
「お、あれが例の目玉じゃないかな」
涼一の言葉で我に帰った。
一枚の絵の前に、いくらかの人だかりができていた。
椅子に腰かけて微笑む女性を描いた、大きな油彩画だった。
絵のタイトルは「微笑むジャンヌ・エビュテルヌ」。